小林海が振り返るシーズン前半総括 
『勝つ方法を模索続けたら結果が出た』

 強豪選手がひしめくチームに所属していると、個人単位ではなかなか勝つ順番が回ってこないのもロードレースの特徴です。小林海はマトリックスパワータグに所属し、今季Jプロツアーを中心にトップレベルの実力を発揮。フランシスコ・マンセボやホセビセンテ・トリビオなど、エース級の選手が多いため、小林はアシストに徹する機会も多くみられました。しかし、今年6月。群馬CSCで自身ツアー初優勝を収めました。その勝利にはどのような意味があったのか。小林にシーズン前半を振り返ってもらいながら紐解いていきます。

−−今シーズンもコロナ禍が長引き、例年とは異なるレーススケジュールだったと思います。どのような気持ちでシーズンに臨みましたか?

 まず、ピーキングをやめました。これまでは“これだ!”というレースを目標に定め、体作りを行ってきました。しかし、レースが実施されるかは昨年に続いて流動的です。なので100%を目指すのではなく、8割程度のコンディションを常に保てるようなイメージでレースを走りました。僕のレベルであれば国内のレースは、たとえ8割でも技術と戦略で勝てると思っています。

−−走り方はどのような工夫をしていますか?

 シーズン序盤、ホセやマンセボを支える走りに徹しました。彼らも勝てる選手なので、自らが勝てる役に回らず、アシストすることも僕の仕事です。3月の広島では、普段から6kgも体重が重いにも関わらず6位に入ることができましたし、4月の群馬も調子が良かった。チームとして結果を出せないレースもありましたが、ただ走るのではなく、考え、チャレンジできた序盤戦だったと思います。

 5月に入ってからは調子を崩しました。ツアー・オブ・ジャパンは最悪のコンディションで1日目、2日目をなんとか終えましたね。でも、何も考えずに走ったわけではありません。富士山ステージでも調子が上がらないにも関わらず、その日のベストな走りができたと自負しています。(区間6位)

 富士山ステージの「あざみライン」はTTの要素がとても強いコースです。実は最近、サイクルコンピューターに表示されるワット数を見ないどころか、パワーメーターを着けてすらいないし、データを残そうとも思っていませんでした。もちろん考えがあってのことですけどね。しかし、このレースだけはパワーの数値を見続けていました。よく選手が「練習の最大平均値は◯◯◯Wだから、その数値を目標に走ろう」とTTを走るのですが、その値がレースで出せるとも限らないのです。この日、全くコンディションが上がっていなかったのは自覚しており、「このコンディションならこのくらいの出力が妥当だろう」と感覚を数値に落とし込んで走ることにしました。一言で表せば“自分のペースで走った”ということですが、感覚と実数値をハイブリッドさせたベストを出せたということです。以前、個人総合を狙って走った経験があったのも大きいですが、考えを持って走ったことが“あの日のベスト”を出せた要因でしょう。

最終日の東京ステージは調子が戻りました。地元のレースでしたので絶対逃げると決めており、「僕がいない逃げは絶対に決まらない。そうでなければ集団スプリントになりますよ!」と監督に大見得を切りましたからね(笑) 結果、有言実行で逃げ続けて目標は果たせました。2位でしたけど。

−−その後、6月の群馬で見事に優勝しましたが、どのような戦略や考えのもとで勝利を収めたのでしょうか。また、その時の気持ちを教えてください。

 僕みたいなタイプはスプリンターほどスプリントが強くないし、ヒルクライマーに上りで勝てるわけではありません。パンチ力と、長距離を走るスタミナで勝負をしています。自覚はあるので、逆に不得意な場所でどうやって勝つかを常に考えながら走っています。勝つ方法は必ず存在していますからね。ずっとそれを探し続けています。

 お話しした通り、チームには勝ちを狙える実力を持つ選手がとても多い。今回の群馬は自分向きだったということもありますが、僕が勝ちを狙ってもいい展開になりました。普段からどうやって勝つかを考え続け、試行錯誤を重ねていたので、数少ないチャンスをモノにできたのだと思います。精神的な能力、レース感、技術の向上を実感できました。シーズン前半のハイライトとなったレースでした。2016年のスペインのアマチュアレースで勝って以来の優勝です。レース後は素直に嬉しかったですし、ホッとしたのを覚えています。

−−シーズン後半の目標を教えてください。

 シーズン前半と変わらず、とにかく勝ち星をあげ続けていきたいですね。ヨーロッパにまた戻りたいですし、今のレースは通過点。10月に全日本選手権が開催されることが発表されましたが、もちろんこれも大事なレース。その日の体でできるベストな走りで勝ちを狙いに行きます。

大事なのはレース1回1回を丁寧に走り、結果を出し続けることです。全日本の前のレースでできないことは全日本でもできません。シーズン前半に得た良い経験や感触をそのままに、良いところを再現できるよう後半に臨みたいですね!

カメレオンロードバイクトレーニング