「強くなりたいなら欧州に定住してはダメだ!」

マンセボとマリノが本音で語るインタビュー(後半)

 

 フランシスコ・マンセボと小林海(マリノ)のインタビュー後半は、日本人選手が直面している問題をテーマにお届けします。果たしてガラパゴス化した日本のサイクルロードレース業界の行く末に未来はあるのか?世界のトレンドとはいかに?世界を股にかけてきた現役の2選手が対談しました。

小林海(マリノ)カメレオンバイクフィットネス管理栄養士付き

©︎Itaru MITSUI

 

マリノ

日本の若手選手が欧州に渡るケースは多くなってきたけど、なかなか活躍できる人材が出てきていないんですよね。これまでいくつもの国で、色々な国籍の選手たちを見てきたマンセボはどう思います?

 

マンセボ

俺は日本人選手たちのフィジカルは欧州の選手たちと比較してもそれほど劣っているとは思ってないよ。身体的にはたくさんのBEPPUやARASHIROはいると思ってるし、名前を上げきれないほどだよ。

 

でも、彼らがなかなか活躍できない原因は「欧州でのレース環境やそれに伴う生活に適応できるかどうか、また、適応する気があるかどうか」にあると思うね。

 

マリノ

僕はスペイン語がネイティブだし、イタリア語も話せるから苦労しなかったけど、言葉のハードルは高いですよね。

 

マンセボ

あと、定住しないという選択肢も重要だと思う。俺は1シーズンフルで走るわけではなく、分けて来日しているんだ。

 

みんな忘れているかもしれないけど、この競技って非常にタフ。練習時間も移動も長いし、とにかく私生活を犠牲にしないといけない。身体的にも精神的にも消耗が激しいスポーツなんだよね。メンタルが終わってしまったら体が動かないことを重要視しないとダメ。若い人ほど家族や友達、恋人との遊びを大切にしないといけないと思うよ。その年代にしなければならないことをしなきゃダメ。色々な国の強い選手たちを見てきたけど、走れなくなる原因で一番多いケースはメンタルがやられるパターンだった。

 

フィジカルを鍛えることも大切だけど、若い選手ほどメンタルをケアしてあげることもさらに大事だと思うね。選手以外の周りの関係者たちがそれを作ってあげるのも重要だね。

小林海(マリノ)カメレオンバイクフィットネス管理栄養士付き

マリノ

南米とかアメリカの選手たちもそうですよね。フルシーズン欧州に定住するのではなく、数ヶ月単位で帰りますよね。これまで、めちゃくちゃ強いジュニアやU23の南米やアメリカ、オーストラリアの若手選手たちを見てきたけど、メンタルやられてバックれる人たちがかなりいた。これは日本だけの問題じゃないから、欧州以外の国はどこも直面することだと思う。根性論だけで何とかなる話でもないというか。うまく解決しているケースもあるから参考にした方がいいですよね。

 

なので、欧州と地元をバランスよく行き来してメンタルケアをしているかなぁという印象。心身ともに自国でしっかりと準備をしてくるイメージ。ツール・ド・フランスに総合優勝する選手も自国で準備してきますからね。日本だと可能な限り若いうちから、なるべく欧州に定住することが求められているけど、各国の成功例と比較すると方向性が違っているのかもね。

 

ただ、これを成功させるには、欧州に適応する能力を伸ばすトレーニングや準備の仕方を熟知していることが前提だから、いまのナショナルチームみたいに方向性が定まらない準備をして欧州に渡り、ただレースを走り、それを“世界との差”と評価するのは間違っていると思いますね。

 

マンセボ先生、国内のレースはこれからどうすればいいっすか?

 

マンセボ

前にも話したけど、とにかく日本は良くも悪くもアップダウンとコーナーしかないサーキットレースが多いね。できれば、タイムトライアルやラインレースといった競技とコースのバリエーションを増やしたほうがいい。

 

日本では交通規制がとても難しいっていうのは理解しているし、サーキットレースで得られるものもあるとは思っている。でも、今の良いところは残しつつ、新しいものを取り入れた方がより欧州に適応できる人材が育つと思っているよ。いきなり欧州式を取り入れるのは無理だから、両極端ではないほうがいいね。

 

大事なのは“国内で海外のUCIレースを走るための準備ができる環境づくり”だと思う。そうすれば欧州に住み続ける必要もないし、メンタルもケアできる。国内のレースと海外のUCIレースは別物だし、何が異なるのかを理解したうえで行動に移すことが大事だと思う。

 

 

マリノ

僕自身、言葉のハードルが他の選手と比べると低いとは言ったものの、地元の日本においてコロナで強制的に2年間近く滞在したことで、結果的に精神的な休息はできていると感じるし、欧州を想定した準備や練習を進めてきたつもりです。でも、海外の選手たちと走る機会を失ってしまったし不安ではありますよね。

小林海(マリノ)カメレオンバイクフィットネス管理栄養士付き

©︎Itaru MITSUI

マンセボ

マリノだけでなく、国内チーム全体が海外に行けてないし、海外のチームも日本に来ていないわけで2年間時が止まってしまっているよね。価値観がどんどん国内だけにフォーカスしたものになっているんじゃないかな。いざ、コロナが収まって、通常通りのカレンダーになると大変だと思う。

繰り返しになるけど、日本には欧州や他の強豪国の選手たちと比べても引けを取らない才能を持っている選手が数多くいると思う。でも、準備やメンタルの重要性についてもう少し理解を深めた方がいいと思う。徐々にそれらの方向性を修正することで、欧州で活躍することは十分に可能だと思うよ。

もっとみんな私生活を大事にしろよ!ストレス溜めちゃ俺みたいに45歳まで楽しく選手できないぞ!マリノはほどほどにな!


カメレオンロードバイクトレーニング